エジプト旅行で最も多い体調不良は、珍しいものでもなければ、話のネタになるようなものでもありません。4日目の夜あたりに始まる36時間ほどの胃腸のトラブルで、原因は屋台よりも、ぬるくなったホテルのビュッフェであることのほうが多いのです。2番目に多いのは暑さによる不調です。倒れるというより、じわじわと消耗していく類のもので、王家の谷での快調な午前を、頭痛を抱えて横になる午後に変えてしまいます。
かつての定番アドバイスの一部は、すでに古くなっています。エジプトにマラリアはもうありません。世界保健機関(WHO)は2024年10月20日にエジプトをマラリア清浄国として認定しました。WHO東地中海地域では、アラブ首長国連邦とモロッコに次ぐ3か国目であり、同地域では2010年以来初めての認定です。ナイル川クルーズのために予防内服をする必要は、いまはもうありません。ただし以下の内容は、出発の4週間から8週間前に受けるトラベルクリニックの受診に代わるものではありません。
早わかり
マラリア: 2024年10月20日のWHO認定以降は発生なし。予防内服は不要です
大半の人に推奨: 定期予防接種を最新の状態にした上で、A型肝炎と腸チフス
黄熱: リスク国から到着する場合、または同国の空港に12時間を超えて滞在した場合のみ証明書が必要
最も起こりやすい不調: 旅行者下痢症。通常は24時間から72時間で治まります
飲み水: ボトル入りかろ過水を。ホテルとレストラン以外の氷にはご注意ください
緊急連絡先: 救急123、警察122、観光警察126
薬局: 数が多く安価で、24時間営業も多く、大半の薬が処方箋なしで買えます
持ち込んではいけないもの: 保健省の事前許可がない、トラマドール、コデイン含有鎮痛薬、ADHD治療用の中枢刺激薬
保険: 入国の要件ではありませんが、緊急搬送、ダイビング、砂漠ツアーには実質的に必要です
受けておく価値のあるワクチン
通常の観光目的の入国に義務づけられた予防接種はありません。とはいえ、それは受ける価値がないという意味ではありません。以下は、2026年時点で米国CDCと英国の国立渡航医学ネットワークが推奨していた内容です。
- まずは定期予防接種から。麻疹・おたふくかぜ・風疹、ジフテリア、破傷風、ポリオ、百日咳です。渡航医が繰り返し注意を促すのは麻疹です。
- A型肝炎。1歳以上で未接種のすべての旅行者に。食べ物と水から感染し、1回の接種でおよそ2週間以内に効果が出ます。
- 腸チフス。エジプトを訪れる大半の旅行者に。とくにホテル以外でも幅広く食事をする方や、オアシス地方へ向かう方に。
- B型肝炎。60歳未満の未接種の旅行者に推奨され、医療や歯科の処置を受ける可能性があるなら年齢を問わず妥当です。
- 狂犬病。全員にではなくリスクに応じて。そして、本来受けるべき人が最も省いてしまいがちなワクチンでもあります。
証明書の規定はこれとは別の話です。エジプトは、黄熱の感染リスクがある国から到着する生後9か月以上の旅行者、または当該国の空港に12時間を超えて滞在した旅行者に対し、黄熱ワクチンの接種証明を求めています。エジプトと東アフリカや西アフリカ、あるいは南米の一部を組み合わせて旅する方が該当します。2016年7月11日以降、この証明書は生涯有効となったため、古いイエローカードもそのまま通用します。パスポートと、エジプトのビザガイドで解説している書類と一緒に保管しておいてください。
繰り返し報じられる2つの話題については、冷静に受け止めてください。ポリオウイルスは2022年と2023年にエジプトの下水検体から検出されましたが、2026年3月4日のWHOポリオ緊急委員会の声明では、エジプトは24か月間の監視対象リストに載っているだけで、出国時の接種証明書が必要な感染国には含まれていません。エジプトの家禽に長く定着しているH5N1鳥インフルエンザは、2006年以降におよそ200人の感染例を出していますが、そのほとんどは自家飼育や市場の鳥を扱った人です。生きた家禽を売る市場には近づかず、鶏肉と卵はしっかり火を通したものを食べてください。
水と氷、そして食事で問題が起きる場所
カイロの水道水は浄水処理され、塩素も十分に投入されていて、何百万人もの人が日常的に飲んでいます。ただしそれは、別の水で育った腸内細菌叢を持つ旅行者の体に合うということとは違います。ボトル入りの水はごくわずかな金額で、どのキオスクでも売られています。購入時は封を確認してください。
見落とされがちなのが氷です。通常は水道水から作られているからです。ホテル、クルーズ船、しっかりしたレストランはろ過水を使っていますが、路上のジューススタンドは事情が異なり、水道水で洗ったサラダや非加熱殺菌の乳製品も同様です。もっとも、実際の発症例の多くは路上の食べ物ではなく、ビュッフェで何時間も保温されていた料理に由来します。客の多い屋台でその場で調理してもらうもののほうが安全です。私たちのカイロ食べ歩きツアーも、その考え方で回る店を選んでいます。
旅行者下痢症、時間ごとの対処
起こりうるものとして想定しておけば、非常事態ではなくなります。多くの場合は24時間から72時間で治まり、大切なのは抗生物質ではなく水分と塩分です。安全な水1リットルに経口補水塩を溶かしたもののほうが、水だけを飲むより失われた分をよく補えます。水だけではナトリウムが不足するからです。ロペラミドの正当な使いどころは1つ、移動や搭乗を乗り切るときだけで、血便や発熱があるときには使いません。
予備の抗生物質については、出発前にかかりつけ医と相談する価値があります。とくに長期の旅や、辺鄙な地域へ向かう旅では重要です。現在の実践では、中等症から重症の場合にアジスロマイシンを1日500mgで1日から3日間、あるいは1gの単回投与とするのが主流で、ある朝おなかがゆるかった程度で使うものではありません。
血便がある、約38.5度(101F)を超える発熱がある、嘔吐して水分を保てない、症状が3日を超えて続く、あるいは尿量が少なく色が濃い、立ち上がるとめまいがするといった脱水の兆候がある。こうした場合は様子を見ずに受診してください。子ども、高齢の旅行者、妊娠中の方は、より早い段階で医師にかかるべきです。逆に、腹部の張りと硫黄のようなにおいのげっぷを伴って1週間だらだらと続く場合は、ジアルジア症の可能性を医師に相談してください。こちらは別の薬が必要です。
プロのアドバイス:経口補水塩は初日に買っておく
エジプトのどの薬局でも、経口補水塩の粉末はごくわずかな値段で買えます。そして、必要になった瞬間は探しに行くべき瞬間ではありません。初日に1箱買って、標準装備として扱ってください。つらい一夜のあとだけでなく、西岸で暑い午前を過ごしたあとにも同じように効きます。
警告:エジプトに合法的に持ち込めない医薬品
エジプトの旅行医学のなかで、実際に法的な結果を招きうるのがこの部分です。トラマドールはヨーロッパや北米では日常的に処方される薬ですが、エジプトでは規制麻薬として扱われます。所持していたために拘束された旅行者もおり、外国の処方箋だけでは弁明になりません。コデイン含有鎮痛薬、強い鎮静薬、ADHD治療用の中枢刺激薬も同じ規制区分にあり、出発前にエジプト保健省の許可が必要になる場合があります。
英国外務省は率直にこう述べています。適切な書類がなければ、その薬の持ち込みは認められず、訴追される可能性がある、と。すべて元の包装のまま手荷物に入れて携行し、病名、一般名(成分名)、数量、個人使用であることを記した医師の英文の書面を添えてください。
暑さ、日差し、砂ぼこり、そして目
7月と8月、ルクソールとアスワンの平均最高気温は41度から42度(106Fから108F)に達し、墓の内部は外気よりさらに暑く、空気も動きません。最南部の夏の紫外線指数は11や12という「極端に強い」区分に入り、日焼け時間の目安表では、無防備な色白の肌はおよそ10分で赤くなるとされています。つばの広い帽子、サングラス、長袖、高い数値の日焼け止めのほうが、どれだけ水を飲むよりも効果があります。
2種類の熱中症の違いを覚えておいてください。熱疲労は、頭痛、吐き気、じっとりした冷や汗、脱力を伴い、深部体温は40度(104F)未満にとどまります。日陰での休息、冷却、塩分を含む水分で回復します。熱射病は深部体温が40度を超え、意識の混濁や言動の異常を伴う緊急事態です。水や濡れた布、氷を使い、首、脇の下、鼠径部を集中的に冷やし、123番に通報してください。夜明けの出発を軸に1日を組み立てる方法は、夏の旅行ガイドで解説しています。
もう一つの恒常的な問題が砂ぼこりです。カイロの粒子状物質から、3月から5月に吹くハムシーンの風まで。コンタクトレンズを使う方は予備として眼鏡を持参してください。人工涙液は想像以上に役立ちますし、砂漠の夜には顔を覆うスカーフが定番です。私たちの白砂漠・黒砂漠1泊サファリの夜も、もちろん同じです。
現地の人が淀んだ淡水で泳がない理由
住血吸虫症(ビルハルツ症)は、中間宿主の巻貝が生息する淡水に皮膚が触れることで感染します。エジプトには常在する2種がそろっており、ナイル・デルタにはマンソン住血吸虫、カイロより南のアスワンに至る流域にはビルハルツ住血吸虫がいます。数十年にわたる対策で有病率は非常に低くなりましたが、感染が止まったわけではありません。だからこそ、注意点も変わっていないのです。
危険なのは、運河、灌漑用水路、溝、湖岸に入って歩いたり泳いだりすることで、とくに水の流れが遅く水草が茂っている場所です。ファルーカを避ける理由にはなりません。ナイル本流を行く船に乗ることは接触にあたりませんし、塩素処理されたプールや紅海も同様です。これは、村を訪ねたときに通りかかる用水路に子どもを入らせないための理由です。アスワンのヌビア村ファルーカツアーが立ち寄る集落の周辺も例外ではありません。血清検査が信頼できるのは接触から6週間から8週間後以降で、治療にはプラジカンテルが使われます。
野犬と猫、そして狂犬病のリスク計算
CDCはエジプトについて、狂犬病に感染した犬が普通に見られると端的に述べており、ウイルスは一部の野生動物の間でも循環しています。猫はどの神殿の境内でも眠っていますし、犬は夕暮れ時に多くの遺跡を歩き回っていて、どちらも人懐こそうに見えます。咬まれること、皮膚が破れる引っかき傷、傷口をなめられること。いずれも曝露に該当します。
もし起きてしまったら、流水と石けんで傷口をまるまる15分洗い、ヨードやアルコールで消毒し、その日のうちに医療機関を受診してください。厄介なのは抗狂犬病免疫グロブリンで、アフリカやアジアの多くの地域で不足しており、すぐに入手するのは困難です。曝露前接種を受けても免疫が完成するわけではありませんが、免疫グロブリンが不要になり、曝露後の治療も2回の接種で済みます。小さな子ども連れのご家族、自転車で移動する方、長期滞在の方にとっては、出発前に自国で受けておくべき十分な理由になります。
知っておくと便利:エジプトの薬局の仕組み
エジプトの薬局は、この国を旅する上で本当に便利なものの一つです。いくつかのチェーンがカイロ、アレクサンドリア、リゾート地で24時間営業の店舗を構えており、薬剤師は旅行者の相談に応じられる程度の英語を話すのが普通で、一般的な薬はヨーロッパの何分の一かの値段です。抗生物質を含め、ほとんどの薬が処方箋なしで手に入ります。
ただし注意が2点あります。抗生物質が買えることは、たいていはウイルス性である症状に自己判断で使ってよい理由にはなりません。また商品名は見慣れたものと異なるため、常用薬は一般名(成分名)を控えて持ち歩いてください。英国外務省が指摘する点も繰り返しておく価値があります。ホテルの提携医が著しく高額な請求をした例が知られており、外の薬局なら同じ薬をはるかに安く手に入れられます。
医師、病院、そして実際に支払われる保険
医療の層が最も厚いのはカイロです。外国人患者の受け入れに慣れた民間病院があり、英語を話す専門医がいて、集中治療も国際水準に達しています。各国大使館は、自国民が利用した病院、医師、薬局のリストを公開しており、検索エンジンに頼るよりずっと確実です。ルクソール、ハルガダ、シャルム・エル・シェイクにも、保険に加入した観光客の対応に慣れた民間病院がありますが、込み入った症例はカイロへの搬送になります。ルクソールからは陸路で650キロ、空路なら1時間の距離です。
支払いは前払いが基本です。民間病院は治療前にカードでのデポジットか現金を求め、自国の保険会社へ直接請求してくれることはありません。領収書は必ず保管し、保険会社のアシスタンスデスクに早めに連絡してください。ハルガダ以南の紅海沿岸や西方砂漠のように人の少ない地域では、保険の価値は緊急搬送の条項に書かれている内容がすべてです。砂漠の旅行者が引っかかりやすい免責事項については、砂漠の安全と許可証のガイドで扱っています。そしてこれは、体調を崩した子どもを抱えて午前3時に場当たり的に動くのではなく、カイロ空港送迎を事前に手配しておくべき、最も地味な理由でもあります。
ダイビング、減圧室、そして約款の細部
紅海のダイビングは、地域の水準で見れば緊急時の体制がよく整っています。再圧チャンバーは、1990年代初頭から施設が稼働しているシャルム・エル・シェイク、2006年以降のダハブ、そしてハルガダとマルサ・アラムにあり、これらを合わせると世界の減圧症症例のかなりの割合を治療しています。
不足しているのは医療ではなく費用面です。一般的な海外旅行保険は、レジャーダイビングの補償を水深18メートルや30メートルまでに制限し、監督者のもとでの1日1本までとし、沈船内部への進入のようなオーバーヘッド環境を除外し、高気圧酸素治療の費用はまったく支払わないことがよくあります。解決策は、専用のダイビング傷害保険か、高気圧酸素治療を明記した保険に入ることです。健康状態の質問票には正直に記入してください。喘息、心疾患、最近の耳の手術、一部の薬は医師の許可が必要です。胸部の感染症や耳詰まりがあるときは潜らないこと。そして最後のダイビングから搭乗までは最低24時間空けること。ハルガダの体験ダイビングのような初挑戦の場では、あの質問票は形式的なものではありません。ライセンス取得の道筋については、紅海のダイビングとシュノーケリングのガイドで説明しています。
私たちが持っていく医療キット
- 経口補水塩、ロペラミド、アセトアミノフェンかイブプロフェン、そして医師が処方した予備の抗生物質
- 虫刺されや擦り傷のための抗ヒスタミン薬の内服、ヒドロコルチゾン軟膏、消毒用ウェットティッシュ
- 高い数値の日焼け止め、SPF入りリップクリーム、サングラス、つばの広い帽子、靴ずれ用の絆創膏
- ファルーカ、ダイビングボート、荒れた砂漠の道のための酔い止め
- 元の包装のままの処方薬と医師の書面、コンタクトレンズを使う方は予備の眼鏡
- 保険証券の番号と保険会社の緊急連絡先。メールだけでなくオフラインでも保存を
出発前に
トラベルクリニックの予約は出発の4週間から8週間前に取ってください。A型肝炎ワクチンの効果が現れ、狂犬病の接種を終え、規制対象の薬を服用している場合には保健省の許可を取るのに十分な時間です。医療以外の持ち物については、エジプト旅行の持ち物チェックリストで網羅しています。
その上で、旅を手配する相手に必要な情報を伝えてください。暑さへの耐性、心臓の持病、シナイ山の日の出トレッキングの夜明け前の登りには耐えられない膝、アレルギー、4軒のホテルをまたいで冷蔵保存が必要な薬。そのすべてが1日の組み立て方を変えますし、事前に伝えるぶんには、どれも気まずいことではありません。気まずくなるのは、山の中腹まで来てからです。





